一般教養としての茶学
本テクストでは、深く濃く編まれてきたお茶の文化を、高度な知見と実践からアプローチし、アカデミカルに分析する専門的なコンテンツではなく、栽培方法や製法などの知識を「一般教養」として学べる内容へと落とし込み、私自身改めてお茶について学んでいきたいと考えています。
茶樹は、学術名「カメリアシネンシス」、ツバキ科の常緑樹であり、優しい香りを持つ白い花を咲かせます (余談ではありますが、そんな茶の花をお茶にした作品なんかもあり、Gen Tea Factoryの茶花茶はジャスミンティーを思わせる香りがあるブレンドの日本茶で、『日本茶アワード2022 - ファインプロダクト賞』を受賞されています)。
「緑茶 - 不発酵茶」、「烏龍茶 - 半発酵茶」、「紅茶 - 発酵茶」は、それぞれ異なる製造法により区分されています。
1.
お茶における発酵の役割と
産地による発酵法の違い
葉に含まれる酸化酵素の働きを利用し、酸化発酵を推し進めるのが発酵茶、そしてその働きを直ちに止めるのが日本茶を始めとする不発酵茶となります。日本を含む多くの国では、前述した三種の発酵度で表しますが、中国では基本的に六つの尺度でお茶を分類します。
それが、「緑茶 - 不発酵茶」、「白茶 - 弱発酵茶」、「黄茶 - 弱後発酵茶」、「青茶 - 半発酵茶」、「紅茶 - 発酵茶」、「黒茶 - 後発酵茶」の六つです。緑茶や紅茶などの色を冠するお茶は、この発酵度が謂れなのだと教えていただいた際はとても驚きました。
1.1
中国における各茶の概要
緑茶
最も生産されるお茶であり、日本とは対照的に釜炒り製法なのが特徴的です。
代表銘柄: 龍井茶(ロンジンチャ) / 碧螺春(ピロチュン) / 緑牡丹(リョクボタン)
白茶
福建省で多く生産される、発酵度が極めて低い段階で乾燥させたお茶。
代表銘柄: 銀針白毫(ギンシンハクゴウ) / 白牡丹(パイムータン)
黄茶
荒茶製造工程中に軽度の発酵を行ったお茶。
代表銘柄: 君山銀針(クンザンギンシン) / 蒙頂黄芽(モウチョウコウガ)
青茶
大陸産と台湾産とで区分される、烏龍茶に代表されるお茶。
代表銘柄: 凍頂烏龍(トウチョウウーロン) / 文山包種(ブンザンホウシュ) / 鉄観音(テッカンノン) / 武夷岩茶(ブイガンチャ) / 黄金桂(オウゴンケイ)
紅茶
イギリスの紅茶文化を受け、中国で独自に発展したお茶。
代表銘柄: 祁門(キーモン) / 正山小種(ラプサンスーチョン)
黒茶
微生物の働きを利用したお茶であり、長期保存できることから、ウィスキーやワインのようにヴィンテージやエイジングを楽しむ文化がある。雲南省の普洱茶が世界的に有名。
代表銘柄: 普洱茶(プーアールチャ) / 六堡茶(ロッポチャ)
1.2
日本における"黒茶"
白茶や黒茶など、日本では聞き馴染みのないものもありましたが、実は微生物による発酵を利用したお茶は日本にも幾つかあり、例えば乳酸発酵させた徳島の阿波晩茶や高知の碁石茶、また、愛媛の石鎚黒茶が挙げられます。(微生物発酵を利用する黒茶は、日本では後発酵茶と呼ばれており、日本国内に四品しか存在しないとても貴重なお茶です。もう一つは富山のバタバタ茶)
後発酵を深掘り
これらは深掘りすると面白い情報が溢れてくるのですが、これらの後発酵には二つに区分することのできる微生物の働きがあり、一つが好気発酵(空気に触れる状態で発酵を進める微生物の働き)であり、もう一方が嫌気発酵(空気に触れない状態で発酵を進める微生物の働き)です。
前述した富山のバタバタ茶や、雲南省の普洱茶は、この前者の好気発酵に当てはまり、阿波晩茶は嫌気発酵となる訳ですが、非常に面白いのは、石鎚黒茶と碁石茶は好気発酵を終えたあと、嫌気発酵を重ねる後発酵二段重ねという点です。
2.
日本茶における栽培方法の違いと
製法の違いからみる独自の進化
3.
品種改良の歩み
あさつゆ
天然玉露とも呼ばれるほど「濃厚な旨味」が特長です。また品種独特の穀物様の香りがあります。この香気は賛否両論ありますが、茶業者よりも消費者に好まれる傾向です。
宇治種の在来選抜。
おくはるか <埼玉県>
国内で最も強寒さに強い品種です。品種独特の桜葉様の香りが特長です。色と味も高い水準を誇り、栽培適性も差別化されており、生産者・消費者双方に利益をもたらす新世代品種の一つです。
埼玉20号に埼玉7号を交配して誕生。2013年に出願公表されました。
おくひかり <静岡県>
色が特に優れる品種です。色沢・水色共に優秀で艶があります。山間地で栽培された時の香気は濃厚な新緑の香りが特長的です。味わいも強く、鼻立ちのハッキリした品種です。
”やぶきた”と中国種”静Cy225”を交配して誕生。静岡県茶業試験場が育成し1987年に品種登録。
おくみどり <静岡県・鹿児島県・京都府>
“おくみどり”は国立の野菜茶業研究所において、1974年に命名登録された公的機関育成品種になります。
層の薄い晩生品種ではありますが、その中で最も高い支持を得ている品種です。国内の栽培面積として上から4番目、全体の3%を占めています。大きな欠点がなく、煎茶から玉露、碾茶まで緑茶(不発酵)系に対して幅広い適性を持ち合わせているのが最大の特長です。大きな個性はありませんが良い意味でクセが無くブレンド(合組)にも向きます。茶業者の高評価に結びついています。
“やぶきた”×静在16の交配です。
きらり31 <宮崎県・福岡県・熊本県・三重県>
日本茶の良いところを併せ持った次世代のリーダー的品種です。”やぶきた”に代わる緑茶品種としての活躍が期待されています。形、色、香り、味、それぞれが高次元でまとまっています。
”さきみどり”と”さえみどり”を交配して誕生。 宮崎県茶業支場が1994年の交配実生群から選抜し、2014年に出願公表されました。
くらさわ
スッと通り抜ける渋味が特長の品種。良質な品種香りには自然豊か森を感じさせる香気があります。人気品種”香駿”の母親としても有名。
”やぶきた”の自然交雑実生より選抜され誕生。静岡県茶業試験場が1967年に育成。
香駿
蘭のような特徴的な香りを持つ品種です。駿河の国(静岡)で育成され、”やぶきた”とは明らかに異なる香りを有する事から”香駿”と命名。近年、非常に注目を集めている品種の一つです。
”くらさわ”と”かなやみどり”を交配して誕生。静岡県茶業試験場が育成し2000年に品種登録されました。
ごこう
さえみどり
昨今の高級茶の代名詞となった品種です。特筆すべきは、鮮やかな色、強い甘味、そしてしっかりとした旨味です。日本茶アワード等の品評会で多数入賞しております。色沢が鮮緑色で冴えがあり、新葉が鮮やかな緑である事から命名。
”やぶきた”と”あさつゆ”を交配して誕生。農林省茶業試験場枕崎支場(現果樹茶研究部門 枕崎茶業研究拠点)が育成し1991年に品種登録されました。
さきみどり
緑鮮やかな色が特長の品種です。春の一番茶の新芽の色が鮮やかな緑色であることに由来から命名。
”F1NN27”と”ME52”を交配して誕生。宮崎県茶業支場が育成し2001年に品種登録されました。
サンルージュ <鹿児島県>
「赤い緑茶」として、強烈な個性を放つ新時代の機能性品種です。新芽にアントシアニンを含有し、レモンや炭酸水等と合わせる事で赤やピンク色に発色します。カタカナを使った茶品種の登録として史上初であり、また国(農研機構)と民間(日本製紙㈱)が共同開発して誕生したことでも史上初でした。今後、時代のニーズに応えていくことが期待されています。
”茶中間母本農6号”の自然交雑実生から選抜して誕生。野菜茶業研究所(現果樹茶研究部門 枕崎茶業研究拠点)が育成し2011年に品種登録されました。
静7132
春を思わせるような桜葉様の香りが特長の品種です。静岡県の清水区では別名「まちこ」とも呼ばれ販売されています。
”やぶきた”の自然交雑実生から選抜し誕生。静岡県茶業試験場が1960年代に育成。7132は当時の管理番号となります。
つゆひかり
色と甘味が秀逸の品種です。日本茶AWARDなどで近年の活躍が目覚ましく人気のある品種の一つです。天然玉露といわれる父親の「あさつゆ」から「つゆ」をとり、静岡県茶業に光明を与える品種となることを期待して「つゆひかり」と命名。
”静7132”と”あさつゆ”を交配して誕生。静岡県茶業試験場が育成し2003年に品種登録されました。
はると34 <宮崎県>
はるみどり <静岡県・埼玉県>
圧倒的な旨味が持ち味の品種です。春の一番茶の新芽の色が鮮やかな緑色をしていることから「はるみどり」と命名されました。老若男女問わず非常に人気がある一方で、栽培のむつかしさ等からほとんど栽培されていない希少品種の一つです。
”かなやみどり”と”やぶきた”を交配して誕生。野菜茶業研究所(現果樹茶研究部門 枕崎茶業研究拠点)が育成し2003年に品種登録されました。
べにふうき
紅茶や半発酵茶として大変優秀な品種です。そして、花粉症緩和作用のある”メチル化カテキン”を多く含む今や日本茶を代表する健康機能性品種でもあります。
”べにほまれ”と”枕Cd86”を交配して誕生。野菜茶茶業試験場(現果樹茶研究部門 枕崎茶業研究拠点)が育成し1995年に日本初の紅茶兼半発酵適性品種として品種登録されました。
みなみさやか <宮崎県>
宮崎県の在来実生種選抜の”たかちほ”に加えアッサム種とコーカサス種の血が入った独特の香りがある釜炒り茶や紅茶に特に適性がある品種です。*煎茶も可
”宮A-6”と”F1NN27”を交配し誕生。宮崎県総合農業試験場茶業支場が育成し1994年に品種登録されました。
むさしかおり <埼玉県>
柔らかくフローラルな香りが特長の品種です。埼玉県(武蔵の国)で育成され、香りの優れた品種であることから「むさしかおり」と命名。
”やぶきた”と”埼27F1-73”を交配し誕生。埼玉県茶業試験場(現 埼玉県茶業研究所)が育成し2001年に品種登録されました。
やぶきた
静岡在来種実生から選抜して誕生。静岡県農事試験場茶業部(現静岡県農林技術研究所茶業研究センター)が育成し1953年に命名登録されました。